基礎研究
世界が注目する超多項目「健康ビッグデータ」
―2,000-3,000項目・2万人の健康情報からみえるもの
岩木健康増進プロジェクト健診で得られる住民の健康情報は、体格や体組成、血液や尿検査といった基礎的な生理・生化学データに限らず、手間や費用のかかる体力測定(運動機能)、ゲノム解析、好中球活性酸素種生能測定、リンパ球機能分析、腸内・口腔内細菌、脂肪酸・アミノ酸分析、血液・メタボローム解析、血清中の微量元素測定、吸気中成分分析などのデータから、就寝時間(睡眠)や食事内容といった個人の生活状況に関するデータ、労働環境、家族構成、学歴といった社会的環境に関するデータまで、全てを合わせると項目数は約2,000以上にも及びます。
この“健康ビッグデータ”を用いることによって、分子生物学的なデータから社会科学的なデータまで、分野の垣根を越えた網羅的な解析が可能となります。これはすなわちあらゆる分野の研究者が参画できる総合的かつ先駆的な健康研究のプラットフォームになることを意味します。
岩木健康増進プロジェクト健診において、住民一人当たりの健診時間は5~7時間以上にも及び、住民の負担も大きいものの、本学と地域住民との厚い信頼関係によって、“健康ビッグデータ”が毎年蓄積されているのです。
また、認知症発症後の意思決定サポートシステム開発や「京丹後コホート」を実施する京都府立医科大学および、世界的に知られる「久山町研究」を率いる九州大学医学部がサテライト拠点として加わったほか、名桜大学、和歌山県立医科大学とも連携し、研究フィールドを拡大しています。平成27年度より本学は九州大学が主導する「健康長寿社会の実現を目指した大規模認知症コホート研究」に加わり、弘前市と連携して高齢者健康調査「いきいき健診」を実施しており、ビッグデータを拡充させています。
さらに京都大学(医)や東京大学(医)、東京大学医科学研究所、名古屋大学(医)、東京医科歯科大学からバイオインフォマティクスや生物統計など、一流の専門家を迎えてビッグデータ解析体制を強化して最先端の研究を推進し、AI(人工知能)を適用してビッグデータから新たな価値創出をめざします。
認知症と生活習慣病の予防に向けたビッグデータの解析
健康ビッグデータの解析により、「軽度認知障害(MCI)」の特徴を追及する作業が急ピッチで進んでいます。
MCIとは、認知機能に問題は生じてはいるものの、日常生活には支障がない状態のこと。この段階で認知機能の低下にいち早く気づき、認知症の予防対策を行うことで、発症する時期を遅らせることができると言われています。
岩木健康増進プロジェクトでは、これまでの研究で検討されてきた項目、すなわち、年齢、食事、喫煙・飲酒・睡眠状況、糖尿病の有無、血圧などに加えて新しい項目の調査が導入されました。ゲノム情報にはじまり、腸内細菌、口腔内細菌、血液メタボローム解析、アミノ酸・脂肪酸分析、酸化ストレス、血清微量元素(12種類)、呼気ガス分析(4種類)などです。ここからの新たな知見の発掘が全体的に期待されます。
健康・医療データ連携事業
構造化チームが取り組む横断的な活動テーマである「健康・医療情報の活用に関する拠点間連携の促進」における活動主体として、弘前大学を事務局とする「COI健康・医療データ連携推進機構」(以下、「COIデータ連携機構」という。)を設置し、平成27年度より活動しています。
COI健康・医療データ連携機構の概要
- COIデータ連携機構は、各COI拠点が実施しているコホート研究等における健康・医療データの共有化を図り、研究の検定力や検証力を高めることで各COI拠点の研究成果の信頼性を高め、効率的な社会実装につなげることを目的に設立されました。
- 現在、日本では多くのコホート研究が実施されています。しかし、そのデータはそれぞれの大学や研究機関で独自に研究と保管がなされ、研究機関の枠を超えた十分な相互活用がなされていない状況にあります。コホート研究等のデータ収集には多大な時間と労力を要します。このような貴重なデータが「埋蔵」された状態にあることは、日本の研究力向上の観点からは大きな損失です。
- COIデータ連携機構では、各拠点で実施しているコホート研究等やウェアラブルデバイス等から収集される健康・医療データの相互利用検証・比較解析を可能にするためのオープンプラットフォームの仕組みを整え、データの共有化とその相互活用を図ります
COI健康・医療データ連携機構の体制
- COIデータ連携機構の業務に係る企画立案及び総合調整に関する事項を審議する運営委員会と各種業務を担うグループを組織しています。
- 運営委員会を構成する運営委員は、COIデータ連携機構の活動に参画するCOI拠点による推薦にて選出しています。
研究リーダー 中路重之[弘前大学大学院医学研究科 特任教授]
COI健康・医療データ連携機構の活動
1.主な連携活動
各COI拠点のデータを集約・活用する「データ連携」と、有志拠点を募り個別のテーマで拠点間連携を行う「テーマ連携」(「運動(体力)」、「栄養(食事)」、「休養(睡眠)」、「腸内細菌」)を活動の二本柱として取り組みます。
2.他のコホート研究の健康・医療データとの連携
「データ解析グループ」では、福岡県糟屋郡久山町の住民を対象とした「久山町研究」や京都府京丹後市の住民を対象とした疫学調査「京丹後長寿コホート研究」など、様々な地域で行われているコホート研究で得られた健康・医療データの連携を始めています。
3.COIプロジェクトデータ・プラットフォームの整備
「データ品質管理グループ」では、幅広い(特に産業活性化に向けた)研究充実を図る目的で、データを共用するための環境整備を進めています。厚生労働省における保健医療情報分野の標準規格として認められた(平成28年3月28日医政発0328第6号)SS-MIX2標準ストレージとリンクしたパーソナルゲノム情報・臨床情報データベースシステムを基本システムとして、将来的にはCDISC対応を目指していきます。
4.連携研究推進・研究倫理支援
「プロトコール企画調整グループ」では、COIデータ連携機構の活動に参加する各大学・研究機関・研究者が、関係する政府倫理指針およびヘルシンキ宣言を遵守し、適正、迅速かつ円滑に研究を実施できるように支援します。
① インフォームド・コンセント(標準様式)の作成
国が定める法律やガイドラインを遵守しつつも研究者の自由な発想に基づく研究と試料や情報の柔軟な活用を保障するとともに、研究対象者が研究目的や方法等を容易かつ十分に理解できることを念頭に置いた「標準様式」を作成しました。
(注扱い)
※各COI拠点より提供された研究計画書(同意説明文書、同意書を含む)から「共通項の洗い出し」を行ない、運営委員会での審議を経て、平成28年3月に「コホート研究における共通IC(インフォームドコンセント)」(ゲノム対応版、ゲノム非対応版)をCOIコホート連携における連携研究の共通インフォームド コンセント(初版)として作成。
② COIデータ連携機構の活動紹介
大学・研究機関の倫理審査委員会で適正・円滑な審査が行われるための支援ツールとして、COIデータ連携機構の活動概要、データ連携の目的・意義について説明するパンフレットを作成し、平成29年3月より配布を開始しました。