基礎研究 | 拠点概要

基礎研究

世界に類をみない「超多項目健康ビッグデータ」から包括的リアル・ワールド・データの構築へ

 

 岩木健康増進プロジェクト健診で蓄積している健康情報は、体格や体組成、血液や尿検査といった基礎的な生理・生化学データに限らず、体力測定(運動機能)、費用のかかるゲノム解析、腸内・口腔内細菌(マイクロバイオーム)、脂肪酸・アミノ酸分析、メタボローム解析などのデータから、就寝時間(睡眠)や食事内容といった個人の生活状況に関するデータ、労働環境、家族構成、学歴といった社会的環境に関するデータまで、その項目数は約3,000にも及び、一個人のあらゆる情報を多様かつ網羅的にカバーしたデータ構造となっています。これまでに行った同地区の小中学生(小学5年生以上)を対象とした健康調査も含めると、健診により得られたデータは延べ2万人分以上と非常に膨大なものとなっていて、このように全身健康(機能)に関するあらゆる内容を包含する網羅的なデータ構造、項目数・対象人数の多さは世界的にみても他に類例がなく、本拠点の大きな特長 (強み)となっています。また、岩木健康増進プロジェクト健診の参加者はほとんどが健常者であり、健診により得られるデータは、予防研究にとって重要な健常者の経年的な“健康情報(データ)”である点も大きな特長となっています。
 COI-NEXTでは、この超多項目健康ビッグデータの解析を通じて得られる成果に加え、次世代医療基盤法*1を活用した弘前市が保有するレセプトや健診のデータ、セルフモニタリング式「QOL健診」等の実施による生涯にわたる幅広い健康関連データを収集し、住民の皆さんが生涯にわたるPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)*2 を手にし、ライフログや健康データを個人の同意の下で包括的なリアル・ワールド・データと突合することで、健康度評価や健康への関心、健康啓発の情報などを個別化された便益フィードバックを受けられるような社会システムの実現を目指しています。

*1 認定された事業者に対して、オプトアウトにより保険者等から要配慮個人情報の提供が可能となり、名寄せされた匿名加工医療情報を、健康長寿社会の形成に資する研究開発や新産業創 出のための利活用が可能となった。
*2「Personal Health Record」個人の健康状態や服薬履歴等を電子記録として本人や家族が把握し、日常生活改善や健康増進につなげるための仕組み。

 

 

 岩木健康増進プロジェクトで蓄積している超多項目健康ビッグデータの解析は、弘前大学のほぼすべての医学系講座および学部が参加している他、京都大学、東京大学、東京大学医科学研究所、名古屋大学、東京医科歯科大学等の生物統計、臨床統計、バイオインフォマティクス、AIの第一級の専門家がビッグデータ解析タスクチームを結成して、解析にあたっています。さらに、拠点の参画企業・機関等からも多様な分野の専門家が一大集結して、互いの強みを活かしながら戦略的アライアンスのもとで、解析を進めています。

 

 

 これまでに多数の成果が上がっており、成果の一つとして、京都大学奥野教授らの研究チームによりAI技術の一種である機械学習と階層ベイズモデリング*3を組み合わせることで、個人の健診データに基づき、個人個人に最適で効果的な健康改善プランを提案するAIの開発に成功しました。この研究成果は「Nature Communications」のオンライン版に掲載されました。
 本拠点が主となって、岩木健康増進プロジェクト健診で蓄積した超多項目ビッグデータをハブとして、全国各地で実施されているコホート研究をはじめとする各種の健康・医療データと連携・包含することで、新たな研究・成果につなげる取り組みを推進しています。厳格な個人情報管理システム運用の下、京都府立医科大学(京丹後長寿コホート研究)、九州大学(久山町研究)、名桜大学(やんばる版プロジェクト健診)、和歌山県立医科大学(和歌山ヘルスプロモーションスタディ)、それぞれの健康データと連携・包含して解析を実施していて、全国縦断的なデータ連携基盤が構築されました。相互補完的な連携解析や比較分析等が進行し、大学間の戦略的データ連携が着実に形成されています。
 このように、これらの超多項目健康ビッグデータを収集・蓄積するチームと、発症が予測できる仕組みの解明をするサイバー戦略チーム(ビッグデータ解析チーム)が連携することで、研究を加速させています。

*3 統計モデリングの手法の一種。データ全体の傾向と個体(またはグループ)の傾向を基に学習を行うことで、複数の分布が混合したデータの表現が可能。

 

 


弘前大学健康未来イノベーション研究機構